契約不適合責任の概要や住宅売買時の適用ポイントを事例で解説
家づくりの基本
2024/10/29
2024/10/29
住宅購入時に施工ミスや思っていた内容と異なる不具合が発生した場合、「契約不適合責任」や「瑕疵担保責任」という考え方が重要になってきます。注文住宅では施工ミスや仕様の齟齬といったトラブルがよく見受けられますが、これらの責任の範囲を理解しておくことで、トラブル発生時に適切な対応が可能になります。今回は、住宅売買における契約不適合責任と瑕疵担保責任について、実例を交えながら詳しく解説していきます。
瑕疵担保責任、契約不適合責任とは
住宅取引において発生する「瑕疵担保責任」と「契約不適合責任」について、その違いと具体的な内容を解説していきます。
瑕疵担保責任の基本的な考え方
瑕疵担保責任は、2020年3月までの旧民法で定められていた考え方です。売買の目的物に隠れた瑕疵(欠陥)があった場合に、売主が負う法的責任を指します。
「隠れた瑕疵」とは、取引時に一般的な注意では発見できない欠陥を指し、例えば住宅の場合、外観からは分からない雨漏りや構造上の欠陥などが該当します。
契約不適合責任の基本的な考え方
契約不適合責任は、2020年4月の民法改正で導入された新しい考え方です。売買契約において、引き渡された目的物が契約の内容に適合していない場合に売主が負う責任を指します。
「契約の内容に適合していない」とは、契約書や設計図面などで合意した内容と異なる状態を意味します。例えば、指定した設備と異なるものが設置された場合や、約束した性能が発揮されない場合などが該当します。
瑕疵担保責任と契約不適合責任の主な違い
1. 対象範囲:瑕疵担保責任は「隠れた瑕疵」に限定されますが、契約不適合責任は契約内容との不一致全般が対象となります。
2. 権利行使の方法:瑕疵担保責任では損害賠償請求と契約解除が主な救済手段でしたが、契約不適合責任では修補請求や代金減額請求も明確に認められています。
3. 立証責任:瑕疵担保責任では買主が瑕疵の存在を立証する必要がありましたが、契約不適合責任では契約内容との不一致を示せば足りるとされています。
住宅売買における具体的な対応
契約不適合責任が適用される具体的なケースとして、以下のような事例が挙げられます。
1. 設備・仕様の不一致:打ち合わせで決めた設備や内装材と異なるものが使用された場合
2. 性能面での不適合:断熱性能や遮音性能が契約で定められた基準を満たさない場合
3. 施工不良:基礎工事や防水工事に不具合があり、本来の機能を果たさない場合
トラブル予防のポイント
1. 契約内容の明確化:仕様や性能について、できるだけ具体的な数値や基準を契約書に記載しましょう。
2. 記録の保管:打ち合わせ内容や変更事項は必ず書面で残し、写真等の証拠も保管しておきましょう。
3. 早期発見・早期対応:不具合を発見したら、すぐに施工会社に通知し、対応を求めましょう。
責任追及の期間制限
契約不適合責任を追及するためには、不適合を知った時から1年以内に売主に通知する必要があります。ただし、新築住宅の場合は住宅品質確保法により、構造耐力上主要な部分等について10年間の瑕疵担保責任が義務付けられています。
なお、この期間制限は当事者間の合意により伸長することが可能です。住宅の性質上、長期間経過後に不具合が発見されることも多いため、契約時にこの点についても協議しておくことが望ましいでしょう。
契約不適合責任の具体的な内容
契約不適合責任では、買主に対して複数の請求権が認められており、状況に応じて適切な対応を選択することができます。ここでは、各請求権の内容と具体的な適用場面について詳しく解説していきます。
修補請求権の内容と適用
修補請求権とは、不適合部分を契約内容に適合する状態に修理・改修することを求める権利です。住宅取引では最も一般的な対応方法となります。
例えば、以下のようなケースで修補請求が行われます。
1. 雨漏りが発生した場合の防水工事のやり直し
2. 設置された設備を契約で合意した仕様のものに交換
3. クロスの貼り直しや床材の張り替えなど、仕上げ部分の修正
代金減額請求権の内容と適用
代金減額請求権は、引き渡された住宅の価値が契約内容に比べて低下している場合に、その差額分の返還を求める権利です。
代金減額請求が適切なケースとしては以下が挙げられます。
1. 修補が技術的に困難または費用が過大となる場合
2. 修補によって建物の価値が完全には回復しない場合
3. 施工内容が契約より簡易なものとなった場合
損害賠償請求権の内容と適用
損害賠償請求権は、契約不適合により生じた損害の賠償を求める権利です。修補費用だけでなく、付随的に発生した損害も請求対象となります。
具体的な損害の例としては以下があります。
1. 不具合の修補にかかる工事費用
2. 代替住居の賃料や引越し費用
3. 営業損失(店舗併用住宅の場合)
契約解除権の内容と適用
契約解除権は、契約の目的が達成できないほどの重大な不適合がある場合に、契約全体を解消する権利です。ただし、安易な解除は認められません。
1. 基礎や構造に重大な欠陥があり、建物の安全性が確保できない場合
2. 法令違反により建物の使用が制限される場合
3. 修補が著しく困難で、住宅としての基本的な機能が果たせない場合
請求権の選択と行使の注意点
1. 複数の請求権の併用:状況に応じて複数の請求権を組み合わせることが可能です
2. 相当な期間の設定:修補請求の際は、相手方に相当な履行期間を与える必要があります
3. 立証責任:契約内容との不一致を客観的な証拠で示すことが重要です
請求権行使の手続き
1. 不適合の発見後、速やかに売主に通知を行う
2. 不適合の内容を具体的に特定し、書面で伝える
3. 専門家による調査報告書等の客観的な証拠を収集する
4. 請求する内容(修補、減額、賠償等)を明確に示す
トラブル防止のための実務的な対応
1. 引き渡し時の検査を丁寧に行い、不具合をチェックする
2. 施工状況や打ち合わせ内容を写真や議事録で記録する
3. 重要事項については必ず書面での確認を取る
4. 疑問点がある場合は、早めに専門家に相談する
住宅売買時の適用ポイントをスタディーケースで解説
住宅売買における契約不適合責任の具体的な適用場面について、実例を基にしたスタディーケースで解説していきます。これらの事例を参考に、トラブル発生時の適切な対応方法を理解しましょう。
ケース1:設備仕様の不一致
打ち合わせで指定した浴室ユニットと異なる製品が設置されていた場合
対応ポイント:
1. 契約書や打ち合わせ記録で指定した製品を確認
2. 実際に設置された製品との仕様や価格の違いを明確化
3. 製品の交換が可能か施工会社と協議
4. 交換が困難な場合は価格差額の返還を請求
ケース2:施工不良による雨漏り
引き渡し後、梅雨時期に2階の天井から雨漏りが発生した場合
対応ポイント:
1. 雨漏りの状況を写真で記録し、施工会社に速やかに通知
2. 必要に応じて第三者の専門家による調査を実施
3. 原因の特定と適切な修補方法の提案を求める
4. 修補工事中の転居が必要な場合は、その費用負担について協議
ケース3:床面積の相違
引き渡し後の実測で、契約時の図面より床面積が小さいことが判明した場合
対応ポイント:
1. 契約書に記載された面積と実測値の差異を確認
2. 誤差が許容範囲を超える場合は代金減額を検討
3. 面積減少による価値低下の程度を算定
4. 必要に応じて不動産鑑定士による評価を取得
ケース4:断熱性能の不足
冬季に入り、契約時に約束された断熱性能が確保されていないことが判明した場合
対応ポイント:
1. 契約書や仕様書に記載された断熱性能の基準を確認
2. 専門家による熱損失測定等で性能不足を証明
3. 追加の断熱工事の実施を請求
4. 光熱費増加分の補償について協議
ケース5:防音性能の不足
実際の生活開始後、約束された防音性能が確保されていないことが判明した場合
対応ポイント:
1. 契約時に定められた遮音性能基準の確認
2. 騒音測定を実施して数値的な証拠を収集
3. 追加の防音工事の実施可能性を検討
4. 改善が困難な場合の代替案を協議
ケース6:設備の動作不良
引き渡し直後から、給湯設備が正常に作動しない場合
対応ポイント:
1. メーカーの技術者による点検を依頼
2. 施工上の問題か製品自体の不具合かを特定
3. 修理または交換の必要性を判断
4. 保証対象となるか確認
トラブル対応の共通ポイント
1. 不具合の発見後は速やかに通知することが重要
2. 写真や動画などの客観的な証拠を必ず残す
3. 専門家の意見を取り入れて対応を検討
4. 修補に要する期間や費用負担について明確に合意
予防的な対応策
1. 契約前の重要事項説明を丁寧に確認
2. 仕様や性能について具体的な数値を契約書に記載
3. 引き渡し時の検査を入念に実施
4. 施工状況の記録や打ち合わせ内容を保管
よくある質問(Q&A)
住宅売買における契約不適合責任について、実務上よく寄せられる質問とその回答をまとめました。トラブル発生時の対応の参考としてください。
責任の範囲に関する質問
Q1. 思っていたのと雰囲気が違う場合も契約不適合責任の対象になりますか?
A1. 主観的な印象の違いだけでは対象となりません。契約書や設計図面等で明確に定められた内容との不一致が対象となります。ただし、モデルルームや完成写真と著しく異なる場合は、契約内容の一部として認められる可能性があります。
Q2. 売主が「現状有姿」で売却すると宣言していた場合でも、契約不適合責任は問えますか?
A2. 「現状有姿」での売買であっても、基本的な安全性や居住性に関わる重大な不具合については、契約不適合責任を問うことができます。ただし、外観から判断できる不具合については対象外となる可能性が高くなります。
期間制限に関する質問
Q1. 不具合を発見したらいつまでに連絡する必要がありますか?
A1. 不適合を知った時から1年以内に通知する必要があります。ただし、新築住宅の場合は住宅品質確保法により、構造耐力上主要な部分等について10年間の瑕疵担保責任が義務付けられています。
Q2. 引き渡しから何年経過しても請求できますか?
A2. 引き渡しから5年を経過すると、原則として権利は消滅します。ただし、この期間は当事者間の合意により伸長することが可能です。また、新築住宅の場合は前述の10年間の特例があります。
請求方法に関する質問
Q1. 不具合を見つけた場合、すぐに工事業者を手配してよいですか?
A1. 原則として、まず売主に通知し、修補の機会を与える必要があります。事前の連絡なく独自に修補工事を実施すると、費用の請求が困難になる可能性があります。
Q2. 売主が修補に応じない場合はどうすればよいですか?
A2. 内容証明郵便で正式に請求を行い、それでも対応がない場合は、弁護士に相談の上、調停や訴訟等の法的手段を検討することになります。
費用負担に関する質問
Q1. 調査費用は誰が負担するのですか?
A1. 不適合が認められた場合、調査費用も損害の一部として売主に請求できます。ただし、不適合が認められなかった場合は、原則として買主の負担となります。
Q2. 修補工事中の仮住まい費用は請求できますか?
A2. 修補工事のために仮住まいが必要となった場合、その費用は付随的損害として請求することができます。ただし、合理的な範囲内の費用に限られます。
保険・保証に関する質問
Q1. 住宅瑕疵保険は何をカバーしているのですか?
A1. 主に構造耐力上主要な部分と雨水の浸入を防止する部分が対象となります。内装や設備機器の不具合は原則として対象外です。
Q2. メーカー保証と契約不適合責任はどちらが優先されますか?
A2. 両者は併存し、買主はどちらを行使するか選択できます。一般的にメーカー保証の方が手続きが簡単なため、保証期間内であればそちらを利用することが多いでしょう。
専門家相談に関する質問
Q1. どのような場合に専門家に相談すべきですか?
A1. 不具合の原因が不明確な場合、修補方法について争いがある場合、高額な費用が発生する可能性がある場合などは、早めに専門家(建築士や弁護士)に相談することをお勧めします。
Q2. 専門家に相談する際の注意点は?
A2. 契約書類や図面、不具合の写真、やり取りの記録など、できるだけ多くの資料を用意しましょう。また、複数の専門家に相談して、適切なアドバイスを得ることも検討してください。
まとめ
契約不適合責任は、住宅取引において重要な法的保護を買主に提供する制度です。施工ミスや契約内容との不一致が発生した場合に、適切な対応を取るためには、契約不適合責任の基本的な考え方を理解しておくことが大切です。
なお、トラブルを未然に防ぐためには、契約前の段階で仕様や施工内容について細かく確認し、書面で残しておくことが重要です。また、引き渡し時の検査も丁寧に行い、不具合があった場合は速やかに対応することを心がけましょう。
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