耐火建築物の概要や、準耐火建築物との違いなどについて解説
家づくりの基本
2025/01/06
2025/01/06
建築物の防火安全性において最も高い基準とされる耐火建築物。本記事では、耐火建築物の基本的な概念から準耐火建築物との違い、具体的な構造例まで、詳しく解説していきます。建築計画や不動産投資を検討される方に、必須の知識となります。
目次
耐火建築物とは
耐火建築物は、建築基準法第2条第9号の2に規定された、最も高度な防火性能を持つ建築物です。火災時における建築物の倒壊及び延焼を防止することで、人命の安全確保と財産の保護を目的としています。
法的要件
耐火建築物は以下の建築物において、法令で設置が義務付けられています。
・地上3階以上の建築物
・延べ面積が3,000平方メートルを超える建築物
・特殊建築物で一定規模を超えるもの(劇場、病院、ホテル、百貨店など)
・都市計画区域内の防火地域に建設される3階以上または延べ面積が100平方メートルを超える建築物
主要構造部の要件
耐火建築物の主要構造部(壁、柱、床、はり、屋根、階段)には、建築基準法に基づき、以下の性能が要求されます。
壁:外壁は1時間から3時間の耐火性能
柱:1時間から3時間の耐火性能
床:1時間から2時間の耐火性能
はり:1時間から3時間の耐火性能
屋根:30分から1時間の耐火性能
階段:30分から2時間の耐火性能
使用可能な構造形式
耐火建築物として認められる一般的な構造形式には以下があります。
・鉄筋コンクリート造(RC造)
・鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)
・耐火被覆を施した鉄骨造(S造)
・耐火木造(燃エンウッド等の技術を用いた木造)
防火区画の設置
耐火建築物では、火災の拡大を防ぐため、以下の防火区画の設置が必要です。
面積区画:床面積1,500平方メートル以内ごと
高層区画:高さ31メートル以内ごと
異種用途区画:異なる用途の部分の区画
竪穴区画:階段室、エレベーターシャフト等の区画
その他の要件
耐火建築物には、主要構造部以外にも以下の要件があります。
・防火設備の設置(防火戸、防火シャッター等)
・避難施設の確保(非常用進入口、非常用の照明装置等)
・消火設備の設置(消火器、屋内消火栓設備等)
・排煙設備の設置
・内装制限の適用
性能規定による耐火建築物
2000年の建築基準法改正により、従来の仕様規定に加えて性能規定が導入されました。これにより、一定の性能を満たすことを証明できれば、従来の材料や工法にとらわれない設計が可能となりました。この性能規定では、火災時の倒壊防止、火災時の延焼防止、避難時間の確保などの性能目標を満たすことが求められます。
耐火建築物と準耐火建築物の違い
建築物の防火安全性において、耐火建築物と準耐火建築物は異なる基準と要件を持っています。これらの違いを理解することは、建築計画において極めて重要です。
構造的要件における違い
耐火建築物は、主要構造部全てに対して最も厳しい耐火性能が要求されます。具体的には、柱や梁などの主要構造部において1時間から3時間の耐火性能が必要となります。一方、準耐火建築物では、これらの要求時間が45分から1時間程度に緩和されています。また、準耐火建築物では一部の主要構造部について、耐火性能の基準が更に緩和される場合があります。
防火区画要件の違い
耐火建築物では、1,500平方メートル以内ごとに防火区画を設ける必要があります。これに対して準耐火建築物では、防火区画の設置基準が若干緩和されており、2,000平方メートル以内ごとの区画設定が認められています。また、竪穴区画や異種用途区画についても、準耐火建築物では耐火建築物と比べて緩和された基準が適用されます。
建築規模と用途制限の違い
耐火建築物は、高層建築物や大規模な商業施設、病院などの特殊建築物に要求される最高水準の防火基準です。一方、準耐火建築物は中規模建築物に適用される基準であり、一般的な事務所や共同住宅などで採用されることが多くなっています。防火地域における建築制限も、準耐火建築物の方が緩和されています。
使用可能な材料と工法の違い
耐火建築物では、鉄筋コンクリート造や鉄骨造が一般的です。準耐火建築物では、これらに加えて木造での建築も比較的容易となります。木造準耐火建築物では、構造材を石膏ボードなどで被覆することで必要な性能を確保することができます。このため、準耐火建築物の方が設計の自由度が高く、コストも抑えることが可能となります。
避難安全性における違い
耐火建築物では、火災時における建物の長時間の保持が求められ、避難施設や消防用設備等の設置基準も厳格です。準耐火建築物では、在館者が安全に避難できる時間の確保を主な目的としており、建物の崩壊防止時間は耐火建築物より短くても構いません。このため、避難施設等の設置基準も相対的に緩やかなものとなっています。
維持管理・点検における違い
耐火建築物は、その高い防火性能を維持するために、定期的な点検と厳格な維持管理が必要です。特に防火設備や消防用設備等については、法定点検の実施が義務付けられています。準耐火建築物でも同様の点検は必要ですが、要求される管理水準は比較的緩やかとなっています。また、改修や補修を行う際の制約も、準耐火建築物の方が少なくなります。
コストと工期における違い
耐火建築物は、高い耐火性能を確保するために、より高価な材料や特殊な工法が必要となります。また、工期も準耐火建築物と比べて長くなる傾向にあります。準耐火建築物では、比較的一般的な材料や工法で要求性能を満たすことができるため、建設コストを抑えることが可能です。ただし、これは建物の規模や用途によって大きく異なる場合があります。
耐火建築物のモデルケース
耐火建築物の代表的なモデルケースについて、構造形式や用途別に詳しく解説します。それぞれの特徴や採用される理由、具体的な仕様について説明していきます。
オフィスビルの場合
都市部の標準的なオフィスビルでは、鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)または鉄骨造(S造)が採用されることが一般的です。地上10階建て程度の中規模オフィスビルの場合、柱や梁には2時間耐火被覆が施され、床には1時間耐火の仕様が採用されます。外壁には耐火性能に優れたALCパネルやPC版が使用され、開口部には防火設備として防火シャッターや防火戸が設置されます。
高層マンションの場合
高層マンションでは、主に鉄筋コンクリート造(RC造)が採用されます。地上20階建て程度の高層マンションの場合、主要構造部には3時間耐火の性能が要求されます。住戸間の界壁には遮音性と耐火性を兼ね備えたコンクリート壁が採用され、各階の床にはRC造の耐火構造が用いられます。バルコニーは避難用の空間として確保され、非常用エレベーターや避難階段も適切に配置されます。
商業施設の場合
大規模商業施設では、大空間を確保するため、鉄骨造に耐火被覆を施す方式が多く採用されます。柱や梁には吹付け耐火被覆やロックウール耐火被覆が施工され、2時間の耐火性能を確保します。売り場は1,500平方メートルごとに防火区画され、防煙垂れ壁や自動火災報知設備、スプリンクラー設備なども完備されます。
病院建築の場合
医療施設では、患者の避難安全性を特に重視した設計が求められます。一般的にRC造またはSRC造が採用され、手術室や重症患者室などの重要区画には特に高い耐火性能が要求されます。防火区画は通常より小さく設定され、水平避難の考え方に基づいて、同一フロア内での避難が可能な計画とされます。非常用電源の確保や医療ガス配管の防護なども重要な要素となります。
工場・倉庫の場合
大規模な工場や倉庫では、建物の用途に応じて様々な構造形式が採用されます。一般的な鉄骨造の場合、耐火被覆として耐火塗料やセラミック系の被覆材が使用されます。危険物を扱う工場では、より厳しい耐火性能が要求され、内装材料の制限や防火区画の設置基準も厳格化されます。天井が高い倉庫では、特に上部の温度上昇を考慮した排煙設備の設置が重要となります。
教育施設の場合
学校などの教育施設では、RC造を主体とした構造が一般的です。教室や講堂などの大空間には、適切な耐火性能を持つ部材が使用されます。避難経路は分かりやすく確保され、各階に2方向避難を実現する避難階段が設置されます。近年では、木造と耐火被覆を組み合わせた耐火木造の採用例も増えており、温かみのある空間創出と耐火性能の両立が図られています。
複合用途建築物の場合
低層部に商業施設、上層部にオフィスや住宅が入る複合用途建築物では、用途に応じて異なる耐火性能が要求されます。一般的にSRC造やRC造が採用され、用途区画ごとに適切な防火区画が設けられます。異種用途区画の境界には、遮炎性能の高い防火設備が設置され、それぞれの用途に応じた避難計画が立てられます。
よくある質問(Q&A)
耐火建築物に関する一般的な疑問について、詳しく解説していきます。設計、施工、法規制など、様々な観点から質問をまとめています。
建築計画に関する質問
Q: 耐火建築物は必ず鉄筋コンクリート造でなければならないのですか?
A: いいえ、必ずしも鉄筋コンクリート造である必要はありません。鉄骨造や木造であっても、必要な耐火性能を確保できれば耐火建築物として認められます。例えば、鉄骨造の場合は耐火被覆を施すことで、木造の場合は燃エンウッドなどの技術を用いることで、それぞれ要求される耐火性能を満たすことができます。
Q: 建物の規模や用途によって耐火建築物とすべき基準を教えてください。
A: 以下の場合に耐火建築物とすることが求められます。地上3階建て以上の建築物、延べ面積が3,000平方メートルを超える建築物、特殊建築物(劇場、病院、ホテル、百貨店など)で一定規模を超えるもの、防火地域内の一定規模を超える建築物が該当します。ただし、地域や用途によって具体的な基準が異なる場合があるため、計画地の条件を確認する必要があります。
コストと工期に関する質問
Q: 耐火建築物と準耐火建築物では、建設コストにどの程度の差がありますか?
A: 一般的に、耐火建築物は準耐火建築物と比べて10〜20%程度建設コストが高くなります。これは、より高度な耐火性能を確保するための材料費や工事費が必要となるためです。ただし、建物の規模や用途、地域性によってコストの差は変動します。また、維持管理費用も考慮する必要があります。
Q: 工期はどのくらい違いますか?
A: 耐火建築物の工期は、準耐火建築物と比較して概ね1.2〜1.5倍程度必要となります。特に、耐火被覆工事や防火区画の施工に時間を要します。ただし、工法の選択や施工計画の工夫により、工期を短縮できる場合もあります。
設計・施工に関する質問
Q: 耐火構造の改修や補修は可能ですか?
A: はい、可能です。ただし、改修や補修を行う際は、元の耐火性能を確保する必要があります。特に、主要構造部の耐火被覆を損なわないよう注意が必要です。また、改修工事の規模によっては建築確認申請が必要となる場合があります。
Q: 木造で耐火建築物を建てることは現実的ですか?
A: 近年の技術革新により、木造での耐火建築物の建設は十分に現実的になっています。燃エンウッドや耐火集成材などの新技術により、必要な耐火性能を確保しつつ、木の温かみを活かした建築が可能です。ただし、一般的な木造建築と比べて、設計上の制約やコストについて考慮が必要です。
維持管理に関する質問
Q: 耐火建築物の維持管理で特に注意すべき点は何ですか?
A: 防火区画や防火設備の定期的な点検と維持管理が重要です。特に、防火戸や防火シャッターの作動確認、耐火被覆材の損傷確認、消防設備の点検などが必要です。また、改修工事を行う際は、耐火性能を損なわないよう十分な注意が必要です。
Q: 定期点検は法律で義務付けられているのですか?
A: はい。建築基準法では、特殊建築物等の定期調査報告が義務付けられています。また、消防法に基づく消防用設備等の点検も必要です。点検の頻度や内容は、建物の用途や規模によって異なります。
法規制に関する質問
Q: 建築基準法の性能規定ルートを採用する利点は何ですか?
A: 性能規定ルートを採用することで、仕様規定にとらわれない柔軟な設計が可能になります。これにより、新しい材料や工法の採用、コストの最適化、デザインの自由度向上などが期待できます。ただし、性能確認のための検証や評価に時間とコストがかかる場合があります。
Q: 防火地域内での建築制限について教えてください。
A: 防火地域内では、建築物の規模や用途に応じて耐火建築物とすることが求められます。具体的には、3階建て以上または延べ面積が100平方メートルを超える建築物は原則として耐火建築物とする必要があります。また、準防火地域でも一定規模以上の建築物には制限があります。
まとめ
耐火建築物は、最も高い防火安全性を有する建築物として、特に都市部の大規模建築物に採用されています。準耐火建築物と比較して厳しい基準が設けられており、建設コストは高くなりますが、火災時の安全性は格段に向上します。建築計画の際は、法令要件や予算、用途などを総合的に検討し、適切な防火基準を選択することが重要です。
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